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政府の有識者会議が外国人技能実習制度の抜本的な改革案を示した。現行制度を廃止して新たな制度を創設することが柱だ。これをたたき台に、近く最終報告書をまとめる。
新制度では、一つの職場で1年超働き、日本語能力など一定の条件を満たせば、同じ分野での転籍(転職)が認められるようになる。現行制度では原則として転籍が認められていない。
令和4年末時点で約32万人に上る外国人技能実習を巡っては、賃金未払いや暴行などの問題が後を絶たず、人権侵害の温床だと批判されている。
転籍できないため、劣悪な労働環境に耐えかねて姿をくらます実習生も後を絶たない。4年の失踪者数は過去2番目に多い約9千人だった。
日本にとって恥ずべき状況であり、これを是正する改革は妥当だ。人権擁護に万全を尽くすのはもちろん、失踪者の続出が地域の治安にも影響を与えかねないと認識する必要がある。
実習生の不適切な労働環境を改善するためには、外国人の受け入れを仲介する監理団体の監督指導、支援などの機能を強化することも欠かせない。
自民党内には、転籍を広く認めれば、地方の実習生が賃金の高い都市部へと流出することを懸念する声もある。だが、そのために転籍制限するよりは、地方の実習生が意欲を持って働ける環境を整備することこそが大事だ。具体的な制度設計で工夫を凝らすべきである。
制度の目的も変わる。現在の技能実習は母国の経済発展を担う人材作りに協力する「国際貢献」との位置づけだが、新制度では「人材確保と人材育成」とし、人口減少による労働者不足への対応も目的に加える。
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新制度での3年の育成期間後は、一定の技能を持つ「特定技能」への移行も促す。企業は労働環境を整備し、外国人の技能習得に責任を持つべきだ。
新制度に移行するにしても、欧州をみれば分かるように、社会にさまざまな問題を生みかねない移民に対し、この改革が安易に道を開くことがあってはならない。
政府は来年の通常国会への関連法案提出を目指している。制度創設から30年を経た上での抜本改革だ。運用開始後も不断の見直しで実効性を高める取り組みが求められる。
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2023年11月10日付産経新聞【主張】を転載しています